認知症になってもいいことがある

image1認知症患者さんとそのご家族にとって一番大変な時期は、病気のことで頭がいっぱいになり、生活のすべてが病気に縛られているような気分になります。ご本人と介護者さんとのやり取りでよく聞く言葉は「(ご本人に対して)嘘ばかりいう」、「言ってることがちぐはぐ」、「さっきいったじゃない」などなど。ネガティブな言葉ばかりでそうした言葉を使うときは表情も怪訝な表情です。認知症患者さんにとって周囲の会話がいっぺんに処理しきれないので、相手の表情からおこっているのか、文句をいっているのか判断し、うなずき聞いたふりをする(取り繕い)、ちょっと言い返す、怒り出す、という反応をします。

認知症患者さんに日常的にかかわっている方はよくご存じかと思いますが、認知症患者さんは自分に対していいことをしてくれる人、嫌なことをする人を見分けるセンサーが敏感です。一度嫌な印象をもつと次からは受け入れてくれません。短期記憶障害が顕著でも、感情の記憶はしっかり残るのです。このことは逆手に取ると、いいことをしてくれる、やさしく接してくれるようになれば認知症患者さんの受け入れもよくなるのです。

介護者さんには訪問看護で自宅に伺って、実際にご本人とのうまい接し方を介護者さんにみていただきます。ご本人が快く着替えてくれたり、笑顔を見せるようになると介護者さんもこうすればいいんだと気付いてくれます。徐々に日常生活の中で、ご本人と介護者さんの関係性が穏やかになり、ご本人が介護者さんに「ありがとう」という感謝の言葉をぽろっというようになります。

こうしたプレゼントは見逃しません。この言葉がどれだけ介護者さんの気持ちを救うか。それまで亭主関白で死ぬまで「ありがとう」なんて言わないと思っていた方が、認知症という病気になったことで「ありがとう」といってくれるようになる。これは病気になったことでもらえたプレゼントだといつも感じます。

家族が認知症になってもいいこともあるんだということを世間の皆さんにはお伝えしたいです。